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高松高等裁判所 昭和52年(ネ)237号 判決

控訴人 徳島市

代理人 武田正彦 伊藤二郎 ほか三名

被控訴人 第二ごみ焼却場設置反対同盟 ほか一七九名

主文

一  原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

二  被控訴人反対同盟は、控訴人に対し、徳島市国府町北岩延字桑添一番の一、一番の四地先土地のうち原判決別紙(三)図面(A)表示A、A′、B′、B、Aの各点を順次結んだ直線によつて囲まれた範囲内の部分を、その地上の木造トタン葺平家建仮設小屋及び木造櫓を収去して明け渡せ。

三  被控訴人反対同盟は、控訴人が原判決別紙(二)物件目録記載の土地にごみ焼却場を建設することを妨害してはならない。

四  被控訴人木村清らの建設工事禁止の仮処分申請を却下する。

五  訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人と被控訴人反対同盟との間に生じたものは被控訴人反対同盟の負担とし、控訴人と被控訴人木村清らとの間に生じたものは被控訴人木村清らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文同旨。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張、証拠

次のとおり補正、付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決三丁裏三行目の「ごみ焼却場」の次に「、以下「本件施設」ともいう。」を加える。

同五丁裏六行目と七行目との間に次のとおり挿入する。

「9′.仮に妨害排除請求が認められる権利が存在するとした場合にも、本件架橋は、本件水利に影響を及ぼさない。

すなわち、本件架橋が直接に水の量や質に影響を与えるものではないことは明らかである。そこで、架橋により用水路からの取水、あるいはその通水に影響を与えることにならないかであるが、取水については、本件架橋地点から利水(取水)する農地は全くないのであるから、この点は問題にならない。

次に、本件架橋の結果、右通水を阻害することにならないかであるが、北岩延区に隣接する井戸地区の用水路上には現在幅員一〇メートル以上の大規模な架橋が存在し、北岩延地区内においても幅員約九メートルの橋をはじめ多数の橋が存在し、また、本件水路上にも幅員約五~六メートルの橋が三本存在しており、これらはすべてコンクリート造りの永久橋であつて、本件架橋が、本件水利に何ら支障を来さないことを示しているのである。

なお、控訴人は、本件架橋の構造について、本件施設の建設工事用の仮橋の場合はもちろん、永久橋にする場合にも、右泥さらえ等ができるように部分的に取りはずしの可能な鉄板状のもので架橋するなどの構造上の工夫を用意しているのであるが、既に建設し使用されている前記架橋は右のような工夫は一切されていない永久橋である。

以上のとおり、本件架橋は本件水利に何らの影響を与えないのであるから、たとえ被控訴人反対同盟が前記権利を有する者であろうとも、本件架橋を阻むために、本件架橋予定地点に団結小屋を建造し妨害行為をなすことは許されないのである。

よつて、被控訴人反対同盟において前記水利権の存在を理由に本件使用許可が無効であると主張するなどして、団結小屋を建築し、控訴人の架橋を妨害することは、本件施設の公共性の点等からいつても、権利の濫用として許されないというべきであるから、控訴人は、同被控訴人に対し、右収去、明渡しを求める。

9″.そもそも、控訴人は、本件使用許可を物権的効力を有するものと解しているわけであるが、仮にそれを有せず、許可者たる県知事(国)に対してのみ主張し得る債権的効力しか有しないとされる場合には、控訴人は債権者たる地位に基づき、土地賃借権又はそれに類似した権利を第三者の侵害から保護するために、土地所有者(本件の場合管理権者)が第三者に対して有する妨害排除請求権の代位行使として、被控訴人反対同盟に対し、前記収去、明渡しを求める。

9″′.仮に権利濫用に基づく請求が認められないとしても、本件土地は、本件水路等に囲繞された袋地であるから、控訴人は、囲繞地通行権に基づく妨害排除請求権を有するものである。

これについては、井原正行宅西横に幅員約二・一メートルの、細井正良宅西横に幅員約一・二メートルの各里道が設けられている。

しかし、民法二一〇条において囲繞地通行権が認められている趣旨は、ある土地が他の土地に囲繞されて公路に通ずることができないときはもちろん、公路に通ずる道路がある場合であつても、土地(袋地)の用法に従つた利用に必要な通路を欠くときには、公益上の見地から土地の利用関係を調整するため、隣地の所有者にその欠缺の止むまで必要な通路の開設を認容させるにあるものである。したがつて、この囲繞地通行権は単に袋地の場合に止まらず、既に公路に通ずる道路がある場合で人の通行することそれ自体には妨げのない場合であつても、その道路が右土地の用法に従つた利用を図るためにはなお狭あいであつて、そのために土地の利用をすることができないときは、隣地の利用関係その他の相隣関係における諸般の事情を考慮して右通路を拡張し、あるいは新たに開設してそこに通行権を認めるものと解されるのである。

そこで、右二本の里道が囲繞地の利用を全うするものであるかについてみてみると、その現状は道路とは到底いい難い状態にあるもので、このような場合には、もはや通路は存しないというべきであろうが、仮に百歩譲つて、このような状態のものであつても道路であるといえるとしても、反対同盟自らが主張するようにこの道路は最大幅員二・一メートルの里道にすぎず、清掃車の日常的な通行利用には狭あいかつ軟弱であり、また、この里道の両側は民家のブロツク塀及び水路に接しており、拡幅することも不可能である。

右里道のこのような状況からする限り、この里道をもつてしては、本件土地の用法に従つた利用を図るために十分なものとは到底認められないわけである。そして、こういう場合にこそ囲繞地通行権が認められるのである。

よつて、控訴人は、被控訴人反対同盟に対し、囲繞地通行権に基づく妨害排除請求権により、前記収去、明渡しを求める。」

同八丁裏二行目の「兼ねる」の次に「とともに同4(三)(6)に対する再抗弁の主張」を加える。

同一〇丁表一一行目から同裏五行目までの記載を次のとおり改める。

「(二)(1) 本件土地「北岩延」は徳島駅から約五キロメートル西方に位置する北岩延地区の中の鮎喰川左岸西約一キロメートルに位置する地にあるが、この地点を核に半径一キロメートルの範囲内(以下「本件区域」という。)について人口、土地利用の現況等は、次のようになつている。

昭和五五年国勢調査人口による人口及び人口密度については、本市全域の人口密度は一三・二五人/haであるのに対し、本件区域においてはわずか四・七五人/haであり、また、人口の伸び率をみても昭和五〇年の国勢調査における数値と比較すると、本市全域の伸び率は四・二一パーセントであるのに対し、本件区域では二・五七パーセントとかなり低くなつている。

本件区域の土地利用の現況は全体の約四分の三程度が農地であるという典型的な農村地帯であつて、地区内にある民家のほとんどは農村特有の集落形態をとつており、本件土地から三〇〇メートル程度以上離れた所に位置している。農地転用の状況については、昭和四八年度から同五八年度までの一一年間において本件区域内の農地が転用された面積は、田一万六六二一平方メートル、畑二万六八四三平方メートル計四万三四六四平方メートルであるが、この区域は市街化調整区域及び農業振興地域であるので、養魚場や資材置場等に転用されたにすぎず、今後においても、農地転用は住宅地化の要因となるような目的の場合には認められないので、住宅地化への進展は予想されない。

本件区域内の昭和四五年から同五八年までの建築着工件数は年平均約一五件にすぎず、さらに前述したように本件区域一帯は農業振興地域及び市街化調整区域に指定されているので、都市化現象はこれ以上進むとは認められない。また、本件土地は北岩延地区の東北端部にあつて、同地区を二分することもないので同地区の地域社会の維持、形成等を阻害することもない。

(2)イ 控訴人は、前述したように、西部地区に本件施設を建設する必要にせまられたために、昭和四四年ごろから用地の選定作業に着手し、徳島市西部地区内の候補地について各方面から情報と資料を収集しながら、立地条件の前記要件に配慮しつつ、現地調査も積み重ね、順次検討していつたものである。

候補地として採り上げ検討した地区は、次の七か所である。

一宮町僧都山(以下「僧都山」という。)

入田町内の御田(以下「内の御田」という。)

国府町早淵(以下「早淵」という。)

国府町北岩延(以下「北岩延」という。)

不動北町一丁目(以下「不動北町」という。)

国府町花園(以下「花園」という。)

国府町芝原字西沢(以下「西沢」という。)

なお、被控訴人は、「行政の怠慢を重ねる徳島市に対して、適地の一例として浜高房という鮎喰川と吉野川の合流する地点で焼却場用地として申し分のないと思われる地を検討してみるように申し入れたことがあるが、徳島市はこの申し出を全く取り上げず検討もしていない」と主張する。

しかし、この主張は全く誤つている。すなわち、「浜高房」というのは、徳島市の春日町若宮前、宝野の吉野川下流右岸、飯尾川(鮎喰川)の合流点に位置し、南は飯尾川を隔てて不動地区と隣接している沖積地を指すのであるが、当該用地のうち、清掃工場用地として利用できる平地部分、すなわち、河川区域及び河川保全区域を除いた平地部分は約二〇〇〇平方メートルしかなく、控訴人の清掃工場用地として必要としている面積一万平方メートル以上を確保するとなると、隣接する民家約七戸の移転措置を必要とするのである。当該用地の北東には吉野川の河川敷等が広がつているので、それも含めれば一万平方メートル以上の用地を確保することが可能であるようにみえるが、河川敷、すなわち、河川区域並びに堤防敷から二〇メートル以内の河川保全区域では、河川法二四条及び五五条に基づく占用許可を得て、公園、広場、運動場等は例外的に建設を許可されるが、それ以外の清掃工場のような大規模建設物の設置は一切認められていないので、いずれにしろ不可能なのである。

なお、仮に河川敷のため大規模建設物の設置が禁止されているという問題がなかつたとしても、そもそも河川敷であるから正に浸水常襲地帯であるだけでなく、清掃車が通過できるような進入路がないため、このための整備を要するほか、さらに、幹線道路も付近に設置されていないために、対岸の春日町に向つて長大な架橋が必要となるなど関連付帯工事に膨大な経費の支出を要することとなり、このことからも到底適地とは言えない地なのである。

ロ 第一段階

候補地選定作業に着手した清掃事務当局では、まず前記候補地のうち、僧都山、内の御田、早淵の三か所の候補地をとり上げ、各候補地の状況等を現地調査を行いながら詳細に調査し、また、庁内の関係課長で構成する検討会にも諮りながら慎重に検討した結果、次のとおり早淵をまず第一候補地として決定した。

検討結果

僧都山は、鮎喰川右岸の県道広野鮎喰線沿いに位置する僧都山の山頂付近の山林、畑、果樹園用地を検討したものであり、面積的には十分であるものの、近くに眉山風致地区を控え、当該用地自体も鳥獣保護区に指定されていること、また、当時本件土地を含めて付近一帯は鉱業権が設定されていたという特殊事情もあり、さらに現状の平坦地部分だけでは面積が不足するため周辺の起伏部分の平坦化等が必要であり、このための造成経費を相当必要とするという問題点があつた。

また、当該用地への進入路が狭あいなため、清掃車が通過するための道路の拡幅を必要とするが、当該道路沿いには約一五戸の集落が存するため、その拡幅作業の困難が予想され、かつ急傾斜面の山であるため清掃車が円滑に運行できるだけの道路構造にすることが困難であり、さらに北向のため冬期の道路凍結などの問題点が存したのである。加えて、取水方法がないという難点もあり、いずれにしろ不適当であるという結論になつた。

内の御田については、民間砕石工場が砕石のために山を切りくずした跡地の平坦部及びその上の山腹を計画したものであるため、僧都山と同様山間部に位置しているが、市街地から当該地区への進入路は幅員三メートルないし四メートル程度の県道神山国府線一本しかないため国府町矢野付近における数箇所の狭あいな箇所で交通渋滞を起こす恐れがあると予測された。

また、上下水道も設置されておらず、排水及び取水のための河川も近くに存しないため、相当な距離の排水、取水管の設置を要するし、取水について地下水を利用しようとしても当該土地の場合は山間部のかつ岩盤の固い地帯にあるので、相当大規模なボーリングをしても、清掃工場として必要なだけの水量の地下水を確保することは困難であろうという問題点も指摘され、さらに立地的にも石井町と隣接した遠隔地にあるため、ごみ収集効率の点からも問題があり、こうしたことから当該地区も清掃工場を立地するには問題点が多すぎるとの結論に達した。

早淵については、鮎喰川左岸堤下に位置する全体としてほぼ四角形をした平坦な農地を計画したものであり、面積的には約二万平方メートル以上ある。

人家との接近状況については、当該用地の南側は工場と接し、予定地の近くに民家一戸があるだけであり、また、近辺の人家数もさほど多くはなかつた。

また、進入路としては、市道鮎喰堤上線と県道鬼籠野国府線をそのまま利用できるという利点があり、さらに、排水については、農業用水路の上流部分に排水するという問題はあるものの、汚水処理施設で農業用水に影響を与えないように対処できるというようなこともあり、こうした点を総合的に判断して早淵を第一候補地と決定したのである。

ハ 第二段階

以上のように、当初の段階では早淵を第一候補地として早速所有者等との地元交渉に入り、市関係者が精力的に折衝を重ねたものであるが、付近住民から反対の動きが起こり、かつ計画地の中央部の所有者がどうしても買収に応じないため、結局立地に当たつての必要条件である用地の取得が現実問題としてできないことから、当該地への立地を再検討せざるを得ない状況にたち至つたものである。

なお、この場合適地であるからとして土地収用法に基づく強制収用により用地を取得する方法も法的には可能であつたが、迷惑施設を強制収用してまで設置するということは前述したように避けなければならないと判断されたので、早淵に立地するには強制収用を避けて通れないという大きなマイナス材料を考慮した場合には、早淵より適地であるといい得るような土地があるのではないか更に検討することになつたのである。

こうしたことから、第一段階であげた他の候補地を再度検討し直すとともに、新たに、北岩延、不動北町、花園、西沢を候補地に挙げ、検討したものである。

検討結果

まず、不動北町については、吉野川右岸の旧新居村の避病舎跡地(昭和六年廃止)一帯を立地予定地と計画したものであるが、旧病舎当時も一メートル二、三〇センチメートル程度の石がきを築き地盤を高くしていたことにも示されるように、飯尾川左岸の本件土地一帯は遊水地帯であるという問題点があり、ここに清掃工場を立地しようとする場合には、こうした地盤高のかさ上げのための全面的な埋立てをすることが必要であり、経費面からの問題がある。

なお、当該土地に民家がないのも同地が遊水地帯であり、交通が不便なためである。

また、清掃工場への進入路は不動地区の各学校、食肉センターの前を通行する市道不動名田線しかないので、交通安全あるいは教育環境及び衛生上慎重な検討を要するという問題点がある。

次に花園については、北岩延地区のほぼ真北に位置し、不動町角の瀬の辺りで飯尾川に面する水田又は畑地を候補地としてあげたものである。

しかし、当該地域は交通の不便な位置にあり、県道東黒田府中線若しくは市道花園北岩延線、同不動袖畠線まで相当長い距離の取合い道路を設けるか、または飯尾川上に架橋しなければ進入路が確保できないという問題点がある。

また、当該土地は、農用地地域に指定されており、かつ、控訴人において当該地域を中心にほ場整備事業を計画していたこともあり適地ではないという結論になつた。

さらに、西沢については、神宮入江川の旧河川敷を候補地としてあげたものであり、徳島市の西端部、石井町に接する辺ぴな地に位置することもあり、広大な面積の用地が確保しやすいものの、逆にいえば、当然のように特に収集運搬効率の点に難点もあり、かつ隣接町村に対して無用の迷惑をかけてはいけないという配慮もしなければならない。加えて、周辺の道路事情が悪く、取付け道路はもとより途中の道路も不十分であること等から道路整備に相当大幅な費用を必要とする。また、当該用地は旧河川敷であるため、浸水対策をはじめ、河川改修等に膨大な経費が必要であるという難点を有するものであつた。

最後に、北岩延については、昭和四六年九月のちようど早淵地区の立地を断念せざるを得なくなつたときに相前後して、国府町北岩延地区の住民から用地の提供の申出があつたものであるが、周辺の人家数は早淵より少なく(半径一キロメートル以内の人家数は、昭和五〇年国勢調査人家数で早淵が六九四戸、北岩延が四〇二戸である。)、付近の民家数もそれほど多くなかつたものである。

また、当北岩延地区は、西部地区のほぼ中央部に当たるので、収集、運搬効率上も適しており、取水についても容易であるとともに排水も逆瀬川に接しているため可能であるというようなことで、特に問題となる点もなく、前述したように地元の方から用地の提供の申出があつたということで用地の確保という点での問題もなかつた。そこで、北岩延地区民の代表者及び用地提供者の理解を得るため、控訴人と同種の機械を用いている高松市清掃工場を見学してもらつた結果、この程度のものなら受忍できるとして、立地の同意も得られたものであり、当初は反対運動もなかつたので、最終的に同地を清掃工場用地として決定したものである。」

同一〇丁裏一二行目の「清掃工場に」を「清掃工場を」に改める。

同一一丁表三行目から一一行目までの記載を次のとおり改める。

「(四)(1) ごみには、可燃ごみ、不燃ごみ、大型ごみ(家具や家庭用電気製品等)等種々雑多な物が含まれており、これの適切な処分を怠ると、都市の美観が損なわれるばかりか、悪臭やハエ・蚊等が発生し、病原微生物の成長を促すなど、環境衛生上由々しい事態となる。

したがつて、市民の健康を守るためにも、ごみは適切に収集され、処分されることが必要であり、特に、可燃ごみは、できるだけ早く焼却処分されることが望ましい。

しかして、控訴人は、地方公共団体として、地方自治法二条二項、三項六号及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律六条二項により一般廃棄物を処理する義務がある。

なお、一般廃棄物のうち事業系ごみについては、同法三条一項の規定により、事業者が自らの責任において処理する責務を負うが、控訴人においては、環境衛生等に対する配慮から、事業者が自ら処分しているものを除き、一般廃棄物処理計画において控訴人の焼却施設及び最終処分場で処理するように定めて、当該処理施設で処理しており、将来においてもこのような方針である。

(2) 控訴人が処理した可燃ごみの量は、論田清掃工場が竣工した昭和五四年度から昭和五七年度までは年平均四・一パーセントずつ増加し、昭和五八年度は昭和五七年度とほぼ同じ量となつているが、昭和五九年度は四月から一月までの処理量が昭和五八年度の同時期に比べ五・一パーセント増加している。

可燃ごみは、論田清掃工場で焼却処理しているが、最近、夏季、焼却炉の定期補修時及び年末年始は、ごみ処理が特に困難となつており、昭和五九年度は一〇、一一月の定期補修時及び年末年始にごみ処理が搬入ごみに対応しきれず、一部のごみを埋立処分した。

このように、既に搬入ごみを論田清掃工場で全量処理することができない状況となつているが、今後、更にごみ量が増加することが予想され、また焼却炉を駆使したことによる施設の疲労、摩耗による補修箇所の増加のため、ごみ処理はますます困難になつて来ることが予想される。加えて、可燃ごみを緊急に埋立するための用地の確保が困難な状況にある。

以上に述べたことから、本件施設の建設が至急に実現されねばならないところであるが、さらに、本市東部地区にある論田清掃工場のほかに本市西部地区に本件施設を建設しなければならない理由について述べると次のとおりである。

控訴人が本件施設を本市西部地区に建設しようとする理由は、まず、控訴人のごみ収集量の増大及び収集地区の拡大に対してごみ処理のための埋立地が不足していること並びに東部地区にある既設論田清掃工場と合わせて西部地区に高能力の近代的焼却施設を新設し、控訴人の合理的かつ長期的なごみ収集処理体制を確立することにある。

現在、西部地区のごみは、東部地区にある論田清掃工場から市内中心部を通つて収集に行き、持ち帰つて処理しているが、西部地区に本件施設を新設することにより、東部地区にある既設論田清掃工場と合わせて分散処理方式をとることができるので、収集車による収集、運搬が効率化され、しかも国道の交通渋滞の一原因でもあつた収集車の右通行がなくなるため、渋滞緩和の一助ともなるのである。そして、それはごみ処理費用の高騰化の抑制及び焼却施設等の充実整備を図ることができるのである。

すなわち、本市の人口は、昭和四二年から四六年にかけて、規模は小さいながらも大都市と同様、次第にドーナツ化現象を呈しはじめ、市中心部のうちでも特に内町、新町、東富田等の中枢部が減少の傾向を示し、加茂名、加茂、渭北、渭東、昭和等隣接地区は加茂名を除いて昭和四八年ごろから減少の傾向にあり、応神、川内、津田等その外周部の増加が著しい。

その上、本市の交通事情は基幹道路が国道一一号、五五号及び一九二号の三路線しかないという悪条件下にあり、自動車交通量の増加に道路交通網が十分対応できていないため、本市清掃車の輸送効率も相当低下しはじめている。現在ごみの収集作業を能率面から考察する場合、運搬作業は、片道六キロメートルから一二キロメートルが限度であるといわれており、作業効率の点でも清掃研究委員会報告によると「一日八時間のうち直接作業(収集)四時間に対して、間接作業(運搬)は二時間の比率、運搬所要時間は片道一五分である」としている。控訴人の場合、ちようど右の比率と逆の傾向(所要時間一時間二〇分のうち、運搬六〇分、収集二〇分)になつており、早急に収集効率の向上、改善の必要に迫られているのである。

これを、収集、処理経費でみると、昭和五八年度の場合、ごみ一トンにつき全体で一万六八三八円、このうち八〇・三パーセントに当たる一万三五二四円が収集運搬に要した費用であり、経年変化をみても、収集運搬費の額は年々増加又は横ばいの状況である。輸送時間の延長に伴う作業時間の増加は、当然のことながら、車両、人員等を増大させる原因となるのであり、焼却施設の公害関係機器のより一層の充実を図るためにも、これらの不必要な経費をできるだけ抑制することが必要なのである。また、控訴人においては従来ごみ量の増加に対応するため埋立方式を併用してきたが、この方式も用地難等の問題があり限界点に達しつつあるため、他都市同様ごみの減量化、安全化、安定化の三目的を同時に果たすことのできる焼却処理方式を強化することとし、焼却工場を新設しようとするものである。

こうしたことから、控訴人においては、本市市域の東西延長一六・四キロメートルを佐古大橋(国道一九二号線の南出来島二丁目と佐古一番町の間の新町川に架る橋梁)を中心として東西に二分し、東の市域を論田清掃工場、西の市域を第二清掃工場の所管として全市のごみを合理的に処理する計画を立てたのである。

(3) 徳島市内八か所の候補地(国府町北岩延、春日町若宮前宝野(浜高房)、不動北町一丁目、国府町花園、国府町芝原字西沢、国府町早淵、入田町内の御田、一宮町僧都山)についてごみの収集効率を検討した結果、国府町北岩延地区が最適地である。」

同一一丁裏九行目の「不可」を「不可能」に改める。

同一二丁表一四行目から同裏末行までの記載を次のとおり改める。

「(一) 将来、本件施設の稼働により、被控訴人木村清ら付近住民に受忍限度を超える被害を発生させる相当程度の蓋然性があることについては、その被害発生を主張する被控訴人反対同盟及び被控訴人木村らにおいて、主張立証責任を負担すべきである。これは民事訴訟における原則から当然のことであつて、必ずしも明確とはいい難い公平の原則を安易に採用し、右責任を転換するのは相当でない。

(二)イ 控訴人が本件施設に予定しているのは、日立造船株式会社のデ・ロール式全連続燃焼式ごみ焼却処理施設であり、同社は、同装置をスイスのフオン・ロール社と技術提携して、設計、製造、販売しており、昭和三九年に大阪市がこれを設置して以来、多くの都市がこれを設置している。右のフオン・ロール社は、ヨーロツパの有名な清掃機器メーカーであり、そのごみ焼却装置の優秀性は広く世界に知られているところである。

ロ 本件施設の計画要目は、次の表1及び表2のとおりである。

表1

建設予定地

徳島市国府町北岩延字桑添及び張

都市計画上の用途地域

農業振興地域及び市街化調整区域

敷地面積

二万二八四二平方メートル

建築面積

延べ二四〇〇平方メートル

煙突実高

GLプラス八〇メートル

煙突内径

一・五五メートル

表2

名称

全連続燃焼式ごみ焼却処理施設

炉数量

九〇トン/二四時間×二基

焼却能力

一八〇トン/二四時間(二四時間連続運転)

給じん方式

ピツト・アンド・クレーン方式

焼却方式

機械式高温焼却(全連続燃焼式)

ガス冷却方式

水噴射式

通風方式

平衡通風式

除じん方式

電気集じん器

公害防止基準

ばい煙のばいじん量〇・〇五g/Nm2以下、いおう酸化物八〇ppm以下、塩化水素四三〇ppm以下(乾式除去装置を設置する。)、窒素酸化物一五〇ppm以下、排水のBOD二〇mg/l(ppm)以下、SS二〇mg/l(ppm)以下、PH五・八ないし八・六

(三) 本件施設の計画内容は、清掃工場建設の基本的要件、すなわち、①適切な処理機能が継続的に保持されること、②廃棄物の質的・量的な変動に対応できること、③建設・維持管理が容易であること、④建設・維持管理に要する経費が適切であること、⑤右①ないし④に関することが当該清掃事業にとつて最適であること、⑥その他、資源化、省エネルギーについて配慮されていることが満たされていて適正なものである。

(1) 焼却能力及び焼却条件

焼却炉は、炉本体、燃焼装置、灰出し、通風、ガス冷却の各設備から構成されており、計画ゴミ質とこれら設備の主要設計項目が焼却能力及び焼却条件を左右する基本要素である。

焼却炉の設計に当たつては、まず計画処理量と計画ごみ質を設定し、次いで炉出口温度が摂氏七五〇度から九五〇度の範囲(ごみ燃焼温度は、悪臭源となる排ガス中の有機物を完全に分解するためには、燃焼温度を摂氏七〇〇度以上とする必要があり、一方、燃焼設備材料の耐用上は、摂氏九五〇度から一〇〇〇度以下が望ましいことから、摂氏七五〇度から九五〇度の範囲が適正値として定められたものである。)になるよう諸条件を定めて熱計算を行う。なお、熱計算関係で定まる項目は、供給空気量供給空気の予熱温度燃焼室出口排ガスの冷却条件(水噴射方式の場合は、水噴射水量など)補助燃料の使用量排ガス量である。

(2) 計画ごみ質

ごみ質は、市町村の形態、社会の経済動向、収集の方法などによつて相違する。また季節や週によつて変動が認められる。このように変動するごみ質のほとんどの範囲に対して、支障なく焼却処理が可能な焼却炉とするために適正な計画ごみ質の設定が必要である。計画ごみ質の設定については、厚生省のごみ処理施設構造指針(以下「指針」という。)では、過去の年次別、季節別のごみ質の実績を基にその九〇パーセント程度が範囲に入る値及び平均値を定めることとしている(指針II 4計画ごみ質)。

焼却処理におけるごみ質項目としては、水分、見かけ比重、組成元素分析値、低位発熱量の値について昭和五〇年度の全国平均の値は一四四二kcal/kgであり、これを季節別にみると、秋1746kcal/kg<春1417kcal/kg≒夏1404kcal/kg>冬1317kcal/kgの傾向を示し、全季節の信頼率九五パーセントの範囲は、一〇九八~一九七三kcal/kgとなつている。また、ごみ質の三成分である水分、灰分、可燃分の平均は、水分五六・〇パーセント、灰分一一・三パーセント、可燃分三二・七パーセントとなつている。これに対して徳島市のごみ質の平均値は、それぞれ低位発熱量一四二五(一〇七〇~一八五〇)kcal/kg、水分五九・一(五三・八~六七・一)パーセント、灰分七・六(四・八~一〇・三)パーセント及び可燃分三三・三(二六・六~三八・九)パーセントであり、前記昭和五〇年度の全国平均ごみ質と比較して、水分及び可燃分の値が多少大きく灰分の値が多少小さい程度であり、一方、低位発熱量は、ほとんど一致しているなど概ね一般的な性状である。また、この結果と右計画ごみ質を比較すると、燃焼条件に対して計画低質ごみの値はかなり余裕がある。なお、計画高質ごみの値は、多少不足傾向と思われるが、最も高い値を示した昭和五三年一〇月のごみ質の値を用いて排ガス量などを計算すると計画高質ごみの場合の計算結果を下回つており支障はない。

(3) 炉体及び燃焼設備

燃焼を行わせる炉体及び燃焼設備の大きさ、型式は焼却能力並びに焼却条件を左右する主要なものである。これらのうち、炉体の大きさの要素である燃焼室の容積は、燃焼室熱負荷によつて、また焼却能力の要素である火床面積は、火格子燃焼率によつて比較することができる。

燃焼室熱負荷の値が大きい炉は、小容積となるが、炉壁の受ける熱量が大きいので、高質の耐火材が必要となり、また炉壁に灰の溶融物がつきやすくなるので、炉の耐用が短くなる傾向がある。逆にこの値が小さい炉は、大容積となり熱量の損失が多くなるので燃えにくくなる傾向がある。これらの点を考慮して指針は8~15×104kcal/m2hという値を示している(指針III§2・4燃焼室熱負荷)。

一方、火格子燃焼率については、その値を高めるほど炉の大きさを小さくすることができるので、この点に関し各種の開発が行われている。これら機種の違いにより火格子燃焼率は相違するが、指針では、一般値としてごみ低位発熱量を一〇〇〇kcal/kg(灰分一五パーセント)、処理能力一炉一五〇t/日、空気予熱温度摂氏二〇〇度、灰の熱しやく減量七パーセントの場合について二〇〇kg/m2hの火格子燃焼率を示している(指針III§2・2火格子燃焼率)。

本件施設で計画している焼却炉は、日立造船株式会社のデ・ロールDO―Wの連続燃焼式のものであるが、右機種は昭和四〇年以来数十施設に採用されていることに示されるように、適正な焼却炉として、我が国で広く用いられており、連続燃焼方式としての機能等について、支障は生じていない。右機種の燃焼設備は階段往復動型ストーカー三組で構成され、その炉体形状はガス流区分では交流式となつている。また、その火床面積は火格子燃焼率二〇四kg/m2h(空気予熱温度摂氏二〇〇度)、燃焼室容積は、計画高質ごみにおいて熱負荷一二万五三〇〇kcal/m2hとなつているが、これらの計画の数値等と指針の一般値を比較すると次のとおりである。

すなわち、火格子面積は低質ごみの低位発熱量が設計上の主要な制限要素になるが、本件施設の場合、計画火格子面積は計画低質ごみ質に対しては多少余裕が少ない傾向である。これは、前記(2)において述べたように、徳島市ごみ質調査結果の値(一〇七〇~一八五〇kcal/kg)と計画低質ごみ質の値(七〇〇kcal/kg)を比較するとかなり余裕があるので、実際には支障はない。また、燃焼室容積は、高質ごみの低位発熱量が設計上の主要な制限要素になるが、計画高質ごみにおける熱負荷(一二万五三〇〇kcal/m2h)は、前述したように指針に示された一般的な適正値(8~15×104kcal/m2h)の範囲内にあり、問題はない。

以上のとおり、炉体及び燃焼設備の内容は、適正なものである。

(4) 通風設備

通風設備は、ごみの定常的な燃焼を維持するために、空気の供給並びに燃焼ガスの排出を制御するものである。これらのうち、空気の供給は押込送風機能力の基礎となる供給空気量によつて、また、燃焼ガスの排出は誘引送風機の能力の基礎となる最大排ガス量によつて比較検討することができる。

供給空気量は、理論上ごみの完全燃焼に必要な空気量(理論空気量)に空気過剰率を掛けた値で示される。一般に連続燃焼方式では、ごみ質の悪いときには、予熱空気による通気乾燥が必要であり、また、ごみ質が良いときは、燃焼温度が上がるので、その冷却用として空気を供給しなければならない。このため空気過剰率は、一・五~二・五の範囲としている。設計においては、高質ごみのときが最大となるので、このときの供給空気量を基にしている。最大排ガス量は、高質ごみの燃焼において発生する。このうち、排ガス量に最も寄与するのは、ガス冷却に水噴射式を採用している場合であり、その噴射水量は高質ごみの低位発熱量などから推算する。原則的には、低位発熱量が高くなるに従い噴射水量は多く必要となるので、その分のガス量が増加する。

本件施設の計画は、可燃分一kg当たりの理論空気量を四・五五kgとして、排ガス量などを計算し(この中で空気過剰率を低質ごみについて一・八、高質ごみについて二・五としている。)、押込送風機二万二二九〇Nm3/h二台、誘引送風機三万六〇三〇Nm3/h二台などの通風設備としている。この計画と右に述べた状況を比較検討すると、計画ごみ質に必要な最大供給空気量は、一万九二四三Nm3/h、最大排ガス量は、二万九七一〇Nm3/hであるので、押込送風機は、一五パーセント強、誘引送風機は二〇パーセント強の余裕が見込んである。

以上のとおり、通風設備の内容は適正である。

(5) 公害防止関係設備

イ ばい煙除去設備

ごみの燃焼によつて生成する燃焼ガスは、冷却、除害してから大気中に排出されるが、本件施設の場合は、ガス冷却に水噴射式を、また、ばいじん除去に電気集じん式を採用している。

水噴射式ガス冷却では、噴射水を完全に蒸発させるために水噴射を高圧かつ流量変化に対応できるように行い、また、ガス冷却室の容積を適当に定める。指針によると、水噴射圧力は一〇kg/m2以上並びにガス冷却室における噴射水の蒸発熱負荷は8~15×104kcal/m2hの範囲としている。

これらの値に対し、本件施設の計画では、噴射水加圧ポンプは、一三m3/h(高質ごみのときの必要量は、六・一m3/h)・一七kg/cm2、ガス冷却室の容積四七m3(高質ごみにおける蒸発熱負荷9.3×104kcal/m2h)となつており、適正な内容である。

電気集じん器は、ばいじんをコロナ放電によつて荷電し静電引力を利用して、集じん極に捕集するものである。右装置は、昭和四〇ないし四五年ころには、重力式集じん器と組み合わされて使用されていたが、集じんダスト排出装置のつまり、槌打機構の故障、腐蝕などが原因となつて安定した運転に欠ける面もあつた。しかしその後、性能の向上並びに安定運転について、さらに開発が進められ、昭和五一年ころには、焼却されるごみ質の変動に対応できることなどを含めてほぼ完全な内容のものになつている。

なお、最近では、電気集じん器の技術進歩が著しく、性能の向上及び安定が図られてきたこと並びに、焼却炉の性能向上により排ガス中のタール分及びカーボンがほとんどなくなつてきたことなどの理由で電気集じん器単独で設置する例が多くなつている。電気集じん器の集じん効率は、荷電粒子の移動速度、集じん面積、滞留時間などの諸条件によつて定まり、これらの値が大きい程高い値が得られる。荷電粒子の移動速度は、電界強度及び電荷量に比例し、ガスの粘性係数に反比例する。粒子の保持できる電荷量は、粒子の径が大きいほど多いので、必要な電荷量が供給された場合は大きい粒子ほど電荷量が大きくなり、したがつて他の条件が同じならば、荷電粒子の移動速度は大きい粒子ほど速くなる。しかし、実際には、各種要因の結果、移動速度は粒子径一μ(ミクロン)以下ではほぼ一定で、それ以上では粒子径に比例して大きくなつている。

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